着物文化 継承へ挑戦
工程一本化や「デニム」普及
着物の仕立て、クリーニング、染め直しや染み抜きといった修繕などを手掛け道内外から年間約3万着近くが持ち込まれる。
自社製品の着物販売も行う4代目の野口聡社長は「当初は染め直しばかりだった。新しい仕事に取り組む姿勢は父譲りかもしれません」。
会社は、本場京都で友禅染を行っていた父の故繁雄さんが着物文化を広めようと札幌に移住し、戦後間もない1948年に創業した。
野口社長は87年、1級染色技能士(染色補修)の資格を取得し、91年に社長に就任。
はじめに洗濯機など大型機械を次々と導入し、作業の効率化を図った。
手作業が中心の業界内から批判も受けたが、「手仕事と機械を融合すればより良く仕上げられる」。
染め直しは約10種類の染料を融合し、野口社長が筆で染める。
職人の手作業を大切にしながら、作業時間を短縮することで仕事の幅も広がった。
当初は百貨店や呉服店向けの法人営業が中心だったが、一般客が商品を直接持ち込めるようにした。
すると道内外に評判が広がり、現在につながったという。
野口社長によると、着物の業界では染めや仕立てなど各工程が分業されており、ブランドや呉服店ごとに取引先が固定化しやすい。
一方で各工程を1カ所でできれば、納期も短くコストダウンにつながる。
「全て自社でまかなえるのがうちの強み。本場でない北海道だからこそ、いろいろなことに挑戦しやすい風土もある」と力強くかたる。
現在は5代目の長男繁太郎さんが中心となり、自社ブランド「Shi bun no San(シブンノサン)」の販売に力をいれる。
中心の商品はジーンズに使うデニム生地を縫製、加工して仕立てた着物や作務衣。
染色技術を生かした鮮やかな色合いや模様が特徴で、自宅で丸洗いできる手軽さや伸縮性も人気の理由だ。
アウターやTシャツもあり、カジュアルな着こなしができるよう展開している。
繁太郎さんは着物文化を若者に広めようと、8年前から「デニム着物」をファッションショー「サッポロコレクション」や、東京の大手百貨店の売り場に出展している。
創業からの開拓者精神は脈々と受け継がれており「日本人と着物の間にできてしまった距離を縮めたい」と話す。
さらには社内の工場見学や新商品の展示会、染色の体験会なども企画している。
野口社長は「着物には先祖から伝わる思いやストーリーが詰まっている。文化を継承し発展させ、多彩な方法で着物の視野を広げたい」と話す。